研究概要 |
1. サーモライシン(TLN)のZnリガンドの改変:TLNは活性に必須のZn2+を1個もつ。このZn2+はH142,H146,E166の3残基により保持されている。本研究では、これらZnリガンドのうちE166をA,C,D,H,Gへ変換し、TLNの活性、安定性、基質特異性に及ぼす効果を検討した。カゼインおよび合成基質Furylacryloyl-G-L-amide(FAGLA)に対する加水分解活性はDへ変換したE166Dでのみ認められたが、カゼイン活性は野生型TLN(WT)の8%に低下し、FAGLA活性は250%に増大した。WTにCo2+を添加すると濃度依存的に活性増大し1mMでは300%に増大したが、E166Dでは逆に15%に低下した。E166DのCo2+親和力はWTに比べて40倍増大することが示された。WTの活性は4M NaCl添加により13倍増大するが、E166Dでは4倍であった。以上のことから、E166DはCo2+の親和力の増大により活性増大がもたらされたと考えられる。 2. Ca3ループの改変と熱安定性増大:TLN様酵素のうちで高い熱安定性を持つものはアミノ酸配列の57と59位にDをもつ。これをSやTに改変するとT50は7-19℃も低下した。この領域はCa3配位ループであり、S53およびS65をそれぞれDに変換すると熱失活速度は30%に低下した。また、S65をPに変換し、G8とN60をCに変換してSS結合を導入した変異体(G8C/N60C/S65P)では熱失活速度は50%に低下した。一方、L144Sでは活性が6倍増加し、これに(G8C/N60C/S65P)を付与した4重変異体では活性が6倍に増大し、熱失活速度は30%に低下していた。このことから、Ca3ループの安定化が熱安定性を増大させること、この熱安定化効果はL144Sによる活性化効果とは独立して機能することが示された。 3. 自己消化部位の改変と熱安定性増大:TLNの熱失活には自己消化を伴う。4消化点が認められ、最も主要なものはG154-L155と考えられる。L155をA,F,S,Gに変換したところ、AとFで失活が顕著に抑制された。とくに、L155Fで活性が30%に低下したが、L155Aでは150%に増大した。L155Aと(G8C/N60C/S65P)を組み合わすことにより、熱安定性はさらに向上した。
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