研究概要 |
サーモライシン(TLN)は既存のプロテアーゼより高い活性と熱安定性ならびに広い基質特異性をもつことを特徴とし、産業利用されている。しかし、食品蛋白質に作用させると苦味ペプチドが生成されるなどの問題点もある。本研究の目的はTLNの活性や安定性を増大させ、基質特異性を改変することにより、問題点の解決と利用性の拡大につなげることである。平成22年度の主要な研究実績を以下に示す。(1)ペプチド基質FA-Gly-Leu amide(FAGLA)に対するTLNの分解活性は、LiCl濃度が4Mまでは指数関数的に増大したが、6M以上では減少した。(2)変異型TLN D150E(Asp150がGluに置換)とL144Sのペプチド基質Z-Asp-Phe methyl ester(ZDFM、人工甘味剤アスパルテームの前駆体)に対する分解活性(K_<cat>/K_m)は野性型酵素(WT)の4-5倍であった。この2つの活性を上げる変異(Leu144→Ser, Asp150→Glu)と熱安定性を上げる変異Leu155→Alaを組み合わせると、ZDFM分解活性が10倍に増大し、熱安定性も向上した。(3)分光光学的な解析により、ZDFM合成反応では、ZDがFMよりも先にTLNに結合することが示唆された。(4)S_2サブサイトを構成する115位(WTではTrp)に他の芳香族側鎖を導入すると,ペプチド基質分解活性がWTの2-3倍に増大した。同じくS_2サブサイトを構成する114位(WTではPhe)に疎水性側鎖を導入すると、カゼイン分解活性は変わらなかったが、ペプチド基質分解活性が低下した。(5)S_1'サブサイトを構成する202位(WTではLeu)に正電荷あるいは芳香族側鎖を導入すると、ペプチド基質分解活性がWTの3倍に増大した。一方、202位にIleおよびMetを導入すると、カゼイン分解活性は変わらなかったが、ペプチド基質分解活性が低下した。このように、溶媒改質および部位特異的変異導入により、TLNの活性と熱安定性が向上し、基質特異性が変化した。
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