ビセニスタチンは抗腫瘍活性を指標に単離された低分子化合物である。我々はビセニスタチンの作用機構を解析する過程で、本物質が動物細胞に対し巨大な液胞を急速に形成誘導することを見出した。このような急速な液胞化活性を有する化合物は例が無く、またその標的分子は小胞輸送や膜融合を制御する重要な分子であることが期待できる。本研究ではビセニスタチンの標的分子を同定し、その標的分子の生理機能を明らかにするとともに、抗腫瘍活性との関連について明らかにすることを目的として研究を行っている。今年度も昨年度に引き続き、エンドソームの輸送等に関係することが知られているホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)系に着目し、検討を行った。まずPI(3)Pを有する膜小胞として、エンドソーム以外にオートファゴソームが知られている。そこでオートファゴソームマーカーLC3や他のエンドソーム小胞マーカーであるAPPL1、LAMP1、EEA1での染色を行ったが、ビセニスタチンによって誘導される液胞はEEA1でのみ染色された。このことからビセニスタチンが誘導する液胞は初期エンドソーム由来であること、また膜状にPI(3)Pが多く存在していることが強く示唆された。さらにHEK293T細胞にPIKfyve単独またはVac14をコトランスフェクションした後、PIKfyveを免疫沈降することで、PIKfyveのPI(3)Pの5位をリン酸化する活性を確認した。現在、免疫沈降したPIKfyveを用いて、ビセニスタチンがin vitroでPIKfyve活性を阻害するかを検討しているところである。
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