Δlac-アセトゲニンは、ミトコンドリア複合体-Iの阻害剤である天然物アセトゲニン類の構造改変の過程で得られた化合物である。これまでの研究から、Δlac-アセトゲニンが全く新規な作用特性を持つ複合体-I阻害剤であることが判明している。本研究では、これまでの構造活性相関研究の知見に基づき、光親和性標識プローブを設計・合成し、ウシ心筋ミトコンドリア複合体-Iにおける結合部位を同定するとともに、この知見に基づいて膜ドメインの機能について考察することを目的とした。 有機スズ中間体をchloramine-T法により[^<125>I]置換し、光反応性Δlac-アセトゲニン([^125I]DLA)を合成した。本化合物はウシ心筋複合体-IをnMレベルで阻害し、誘導する活性酸素発生量が少ないなどΔlac-アセトゲニンに特徴的な作用特性を示すことを確認した。 [^125I]DLAによる光親和性標識実験の結果、Δlac-アセトゲニンは複合体Iの膜ドメインを構成するND1サブユニットを特異的に標識することを明らかにした。標識されたND1サブユニットの限定ペプチド分解を行い、Tricine-SDS-PAGEで電気泳動した後、ゲルのオートラジオグラフィーから消化されたペプチド断片のおおまかな分子量を調べることによって、ペプチドマッピングを行った。その結果、[125I]DLAはND1サブユニットの3番目のマトリックス側ループに2箇所の結合部位をもつことを明らかにした。本成果は、ND1サブユニットが複合体-Iの活性に極めて重要な寄与をしていることを示すものである。
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