研究課題
本課題では、ビタミンA及び不飽和脂肪酸群などの脂溶性栄養素の脳機能に対する役割を分子レベルで解明し、脂溶性栄養素を利用した脳機能維持及び機能改善方法を提示することを目標とする。(1)レチノイン酸受容体RARコンディショナル変異マウスの作製と解析テトラサイクリンシステムによる制御下で野生型あるいはドミナントネガティブ型RARを発現制御可能なコンディショナル変異マウスの作製及び解析を進めた。外来遺伝子の高発現が観察されたトランスジェニックラインを用いた行動学的解析から、成体のマウスにおいて野生型RARが高発現した場合には、空間記憶・恐怖記憶及び社会認知記憶形成能力が顕著に向上すること、逆に、ドミナントネガティブ型RARが高発現した場合にはこれらの記憶形成に顕著な障害が観察された。また、これらの変異型マウスの海馬ニューロンの電気生理学的解析により、野生型RAR高発現によりLong-tem potentiation (LTP)の増強、ドミナントネガティブ型RARの高発現によりLTPの減弱が観察された。以上の解析結果より、ビタミンA情報情報伝達経路が記憶能力を正に制御すると結論した。(2)脳機能に対する脂溶性栄養素の効果の解析;(1)で作製した野生型RAR過剰発現マウスを認知症モデルマウス等と交配してダブルトランスジェニックマウスを作製し、認知症に対するビタミンA情報伝達経路活性化の役割の解析を行っている。一方、レチノイン酸を野生型マウスに連日投与した結果、顕著な記憶能力の向上が観察された。以上の結果から、レチノイン酸の摂取調節によって記憶障害が改善されることが強く示唆され、今後のビタミンA摂取調節による認知症等の記憶障害緩和への応用が期待された。
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