研究課題
基盤研究(B)
現在、「脳と栄養」への関心が社会的に高まっている。従って、「スポーツ栄養学」に基づいた運動時の体調管理が常識となっているように、脳機能に対する栄養素の役割が網羅的に解析され、正確な「脳栄養学」的知識が社会に提供される必要に迫られている。一方、薬剤開発に比較して、精神・神経疾患に対する機能性食品の応用は簡便かつ広範な改善や予防方法開発に貢献できる。以上の背景から、本研究課題では、脂溶性ビタミンや不飽和脂肪酸を中心とする脂溶性栄養素による脳機能制御機構を解明し、脳機能向上及び脳機能障害改善の方法を開発することを目的とした。脂溶性ビタミンの一つビタミンAの活性本体はその代謝産物であるレチノイン酸であり、レチノイン酸受容体を介して、その生理作用が発現される。本研究では、このレチノイン酸受容体のコンディショナル変異マウスを作製し、脳内特異的、かつ、成体時のビタミンA情報伝達経路を阻害した影響を解析した。その結果、ビタミンA情報伝達経路の阻害により、海馬依存性記憶形成と海馬CA1領域の長期増強(Long-Term Potentiation ; LTP)の障害が観察された。さらに、記憶形成及びLTPをより強い条件下で誘導することで、これらの障害の改善が認められ、海馬依存性記憶能力とLTPの間に相関関係が認められた。また、生化学的解析により、変異マウスの海馬ではAMPA型グルタミン酸受容体サブユニットGluR1及びPSD95の発現低下が観察された。以上の結果より、ビタミンA 情報伝達経路は海馬の神経可塑性制御を介して、記憶形成を正に制御すると結論した。脳機能に対する不飽和脂肪酸類の重要性が唱えられているものの、その作用機構は不明である。一方、記憶は想起されると不安定になり、タンパク質合成依存的な再固定化のプロセスを経ることで再度安定した記憶として貯蔵される。この記憶不安定化のメカニズムに着目し、記憶不安定化に対するカナビノイド受容体(CB1)の役割を解析した。その結果、恐怖条件付け文脈学習及びモリス水迷路課題を用いた解析から、記憶想起後にタンパク質合成阻害剤アニソマイシンと、CB1のアンタゴニスト(SR141716A)とを同時投与した場合には、タンパク質合成阻害による記憶の破壊が妨げられた。以上の結果から、想起後の記憶不安定化のメカニズムには海馬におけるCB1が必要であることが明らかとなった。従って、内因性カナビノイドの増加により、恐怖記憶不安定化が促進され、PTSDなどの恐怖記憶が原因となった精神疾患の改善が期待されることが示唆された。以上の一連の結果により、脳機能に対するビタミンA 及び内因性カナビノイドの重要性が示され、これら脂溶性栄養素が脳機能向上や脳機能要害改善に貢献する可能性が示された。この可能性に関して、様々な脳機能障害モデルマウスを用いて解析を進めている。
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