研究概要 |
宿主にとっての生体外異物である腸内共生菌は,完全に排除されることなく腸管内に共生できるとともに,腸管組織形成や腸管免疫系の応答に影響を与えていると考えられている.特に,腸内共生菌が感染防御に重要な免疫グロブリンA(IgA)産生を活性化することが知られている.本研究では,腸管免疫系の感染防御に重要なIgA産生誘導に与える腸内共生菌の影響を解析した.マウス小腸パイエル板(PP)細胞のin vitro培養系にマウス腸内共生菌(Bacteroidesの8菌種、Escherichia coli、Lactobacillus,Enterococcus)を添加して検討したところ,PP細胞のIgA産生やIgA形質細胞の発現を強く誘導したのはBacteroides属の8株であり,さらにグラム陰性菌のBacteroidesおよびE.coliはいずれもIL-5産生を高める傾向を明らかにした.さらに,B.acidifaciens strain A43(BA)とL.johnsonii(LJ)をそれぞれ無菌マウスに単独定着させたノトバイオートマウスを作製したところ,PP細胞のIgA産生に与える影響は,無菌マウスのPP細胞よりもBA定着マウスのPP細胞の方がBAやLJなどの細菌に対するIgA産生は高く,菌体特異的なIgAの産生も高かった.すなわち,Bacteroidesはマウス腸内で排除されずに共生できる最優勢菌の一つであり,Bacteroidesが感染防御に重要なIgA産生を活性化することで,腸管粘膜に侵入した病原菌などの迅速な排除や適正な腸内共生菌の維持を通して,腸内環境の恒常性に寄与している可能性が考えられた.さらに,アレルギー反応との関わりの深いマスト細胞は無菌マウスにおいて血中のマスト細胞数の割合が通常マウスより高く,腸内細菌の刺激により,骨髄由来マスト細胞のIgEと抗原により誘導される脱顆粒応答が抑制されたことから,腸内共生菌がアレルギーに伴う炎症反応の制御に強く関わっていることを明らかにした.
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