研究概要 |
木部通水阻害の進展と線虫の樹幹内分布の関係を明らかにするために,上下方向に移動可能な永久磁石(0.3T)と,直径2cmのU字型RF coilからなるコンパクトMRIシステムを用いて、木部通水阻害の非破壊観察を行った.供試木は4年生クロマツ苗18個体とし,2010年7月29日と2010年9月8日の2回に分けて,29℃に加温した実験室内で線虫接種を行った.MRIによる撮像は,接種部を0cmとし,5cm上部から10cm下部まで、1cm間隔で行った(撮像条件:TR=500ms,TE=19ms). 7月接種では計12日間,9月接種では計10日間にわたって毎日撮像を行った.MRIによる撮像後,主軸を各撮像部位を中心として1cm長に切断し,凍結包埋して切片を作成した。切片はF-WGAによる染色を行い,蛍光顕微鏡下で組織中の線虫分布を観察した.7月接種と9月接種において取得したMRI画像より,通水阻害の拡大過程を,Phase1からPhase5の5段階に分類した.7月接種では,Phase1,Phase2の時期が長く,Phase3に達した後,2日以内にPhase4,Phase5へと急速に黒色領域の範囲が拡大した.一方,9月接種では,Phase3以上に進んだものはみられず,通水阻害の拡大範囲は限定的であった. 7月接種個体の中から,接種5日後にPhase4に該当した個体では,接種部の2cm上から2cm下の範囲で接種側の皮層樹脂道,木部樹脂道に多数の線虫が観察され,-3cm以下の部位では接種部側の木部樹脂道に線虫がみられた.Phase5の個体では,すべての撮像部位の横断面全体で木部樹脂道内に多数の線虫が存在し、皮層樹脂道、形成層にも広く線虫が分布していた.これらの線虫分布は,MRIで観察された黒色領域の面的な分布とよく対応していたことから,通水阻害進展と組織内の線虫分布との間に密接な関係があることが示された.
|