中国における重金属鉱山資源の開発と利用は、経済発展に不可欠なものとなっている。しかしその一方で、鉱山やその周辺地域での乱開発による重金属汚染は極めて深刻である。鉱山の乱開発は植生と耕地を直接破壊するだけでなく、鉱石の洗浄で生じる未処理の廃水が河川と土壌を汚染する。また、砂礫など大量の固形廃棄物が広大な土地に山積みされ、雨水による風化によって重金属が溶出し、周辺の広い土地を汚染する。 鉱山性荒廃地から溶出する有害物質を軽減するには、植生による被覆によって雨水での急激な風化を防ぐことが重要である。また、植生が回復するによって植物体や土壌有機物へ有害物質が固定されることも有害物質の溶出抑制に繋がる。こうしたことから、鉱山性荒廃地における森林の再生は汚染問題の効果的な解決法の一つである。そこで、本研究の目的は菌根菌を利用することにより、より効果的な鉱山性荒廃地での森林再生法を考案する。 本研究では野外調査によって現地で定着している菌根菌の群集構造と植生回復への影響を明らかにするとともに、野外で得られた知見に基づいた室内実験によって菌根菌による重金属耐性の促進メカニズムを明らかにすることを目標とする。それぞれの具体的目標設定は以下の通り。 (1)野外調査 中国での異なる重金属鉱山性荒廃地(銅、鉛、亜鉛など)を対象とし、複数の樹木種と共生する菌根菌を調べ、鉱山荒廃地に特異的な外生菌根菌の群集構造を明らかにする。 (2)室内実験 これまでの研究では単独種を対象とした実験が多く行われてきたが、自然環境下では複数の菌種が共生することが一般的である。そこで、1)で得られた知見を基に、各荒廃地に特異な菌根菌を単独・複数種で植物に接種し、耐性促進の生理的メカニズムを明らかにする。複数種の接種では、競争を想定して同一根系に複数種を接種するもの(複数種混合接種)と、競争を回避するために異なる根系に接種するもの(複数種隔離接種)の2つの方法で行うことで菌根菌間の相互作用のメカニズムを解明する。
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