研究概要 |
本研究は、樹木の適応的な遺伝変異を明らかにするため、ブナを研究材料として適応的遺伝子の探索を試み、それら候補遺伝子の地理的変異を調べて、その生態的意義を明らかにすること、および得られた結果をもとに、ブナ集団の地域特有の遺伝資源保全やブナ林の保全管理のあり方を考察することを目的としている。本年度は、ブナのEST(expressed sequence tag)を用いて、ブナ集団の塩基配列の変異を調べた。ブナのESTライブラリーと公開データベースから核の発現遺伝子領域を増幅するプライマーを14対設計した。先行研究で遺伝的分化が認められている4つの集団の各16個体を用いて、設計したプライマーを用いてPCR増幅およびダイレクトシークエンスを試みた結果、7つの領域において配列の決定が可能であった。合計解析塩基数はエクソン1,808bpとイントロン1,311bpであった。多型サイトはエクソンに20カ所、イントロンに50カ所みられた。平均塩基多様度0.00217であり、他の木本種で知られているものと同程度であった。多型サイトの多くは集団ごとに異なっており、集団分化の結果を反映していた。最も北に位置する北海道の大千軒岳集団が最も塩基多様度が高かった。最終氷期最盛期(LGM)以降に集団が北方へ分布拡大したのであれば、北方集団ほど遺伝的多様性が低下していると期待される。実際、アロザイムや核マイクロサテライトではそのような傾向が得られたが、今回の結果はそれとは異なった。LGMには北海道の渡島半島にレフユージアが存在していだという説があり、それにより説明されるかもしれない。TajimaのDが全体的に負に偏っており、これは歴史的な集団サイズの急激な増加を示唆している.
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