研究概要 |
一般に,クローナル植物は栄養繁殖を繰り返しているにもかかわらず,高い遺伝的多様性を示すとされ,その遺伝的多様性の維持は個体の定着と死亡が同率でおこることを仮定して説明されている。しかし,ササは長寿命一回繁殖性植物であり,個体群は一斉に形成され,その後の新規加入がほとんどないために,一般的なクローナル植物とは異なる。そこで、本研究では,クローン構造に着目して、特異的な開花様式をもつササがどのように遺伝的多様性を保っているのかを明らかにし、それらの成果を元にササの生活史特性の進化にせまろうとするものである。 昨年度は京都市に設置した継続調査地において、一斉開花したチュウゴクザサの開花集団と種子及び実生集団のクローン組成についての解析を進めた。その結果、開花個体群は多様なクローンが混在して形成されており、それらが同調して開花したことが明らかになっている。一方、こうした一斉開花の意義を明らかにするために、ササでよく見られる小規模な開花(部分開花)についても秋田県、宮城県で解析を進めており、小規模開花についてはクローンの一部のみが開花しているのが一般的であることが明らかになりつつある。これらの知見をもとに、長寿命一回繁殖性であり、広範にわたって同調開花するという習性の適応的意義についての議論を深めている。 これらの成果を含めて、日本生態学会誌60巻に「Bambooはなぜ一斉開花するのか?~熱帯から温帯へのクローナル特性と開花更新習性の進化を探る~」という特集を編集した。また、この他、2009年7月にベルギーで行われたクローナル植物国際ワークショップで計4報の報告を行ったほか、IUFLO大会(マレーシア)、東北森林管理局森林林業技術交流発表会等で成果発表を行った。
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