研究概要 |
九州ではツキノワグマは,1987年に大分県で捕獲されたのを最後に捕獲および生息を示す確実な根拠はなく,現在では絶滅したと考えられている.この最後に捕獲された個体は,野生個体であるとされているが,他地域から移入された個体の可能性も指摘されている.今回,この個体の由来を明らかにすることを目的としてミトコンドリアDNA解析を行った.調節領域704塩基の配列を決定し,すでに発表されている系統地理学的研究の結果と比較したところ,同個体のハプロタイプは福井県嶺北地方から岐阜県西部にかけて分布しているものと同一だった.このことから,同個体は琵琶湖以東から九州へ移入された個体,もしくは移入されたメス個体の子孫であると結論づけられた.このことから、九州地方のツキノワグマは50年以上捕獲されていないことになり、絶滅していることが強く示唆された。 ツキノワグマが大量出没した年に遺伝構造がどのように変わるのかをマイクロサテライトDNA解析により明らかにした。調査は2004年から2008年にかけて富山県で行った。ヘアトラップで回収した体毛および通常年に狩猟により捕獲された個体を通常個体として扱った。04年と06年を大量出没年とし、秋に有害駆除により捕獲された個体を出没個体として扱った。両者のマイクロサテライトDNA6遺伝子座の遺伝子型を決定し、個体間の遺伝的関係と地理的距離について解析を行った。通常個体群では雌雄ともに距離による隔離の効果が見られるのにたいし、大量出没年の出没個体では遺伝構造は見られなかった。大量出没の翌年には遺伝構造が回復していることから、大量出没時の遺伝構造は一時的なものであり、次世代への遺伝構造には影響しないことが示唆された。
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