研究課題
相模湾長井沿岸潮下帯(水深2~4m)に形成された有節サンゴモ群落(ACA)、テングサ群落(GE)、および無節サンゴモ群落(CCA)内から採集された甲殻類のうち、調査期間を通しての平均個体数密度が全甲殻類の10%以上となった優占種(または複数の種を含むグループ)は、ヨコエビ類(CCA、GEにおいて優占)、ブチヒメヨコバサミ(ACA)、ホンヤドカリ(CCA)、アラサキモガニ(ACA、GE)、ヒメシワオウギガニ(CCA、ACA)、ヒライソガニ(CCA)の6種であった。安定同位体を用いた解析の結果、これらの甲殻類は、いずれもアワビ類やサザエの捕食者ではないが、初期稚貝と餌料を巡る競合者となる可能性が示唆された。これらの優占甲殻類について出現動態の詳細な解析を行った。このうちアラサキモガニ(新称)は、本研究でこれまで記載されていない新種であることが確認された(新種記載論文を投稿中)。アラサキモガニの個体数密度と甲幅組成の経月変化を対比した結果、本種のメガロバ幼生がテングサ群落と有節サンゴモ群落に着底することが強く示唆された。また、稚ガニ加入開始後の数か月間には成熟個体が出現しなかったことから、個体の寿命は1年程度と考えられた。長井沿岸の岩礁域に生息し、個体数密度は高くないがサザエやアワビ類稚貝を捕食する可能性のある大型甲殻類5種(スベスベマンジュウガニ、ベニツケガニ、ショウジンガニ、イシダタミヤドカリ、イセエビ)を用いた室内実験により、それらのサザエ稚貝に対する捕食量および捕食痕跡を調査した。スベスベマンジュウガニ、ベニツケガニおよびイセエビがサザエ稚貝を捕食し、ベニツケガニの捕食量が最も多かった。これらの捕食者の捕食痕跡は種によって異なることが明らかとなった。野外からもこれらの被食個体と同様の捕食痕跡を持つサザエ稚貝の殻が採集され、捕食痕跡の形状から天然環境下での捕食者を推定できることが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画どおり、アワビ類やサザエなど磯根資源の着底・成育場となっているサンゴモ生態系の構造と機能が着々と解明されていると同時に、その副産物として、新種の十脚甲殻類(アラサキモガニ)が発見され、しかもそれが優占種としてサンゴモ生態系に大きな影響を及ぼす可能性が示されるなど、予期せぬ重要な成果が得られたため。
平成24年度は最終年度であるため、これまで通りに研究を遂行するとともに、これまでの成果を取りまとめてサンゴモ生態系の構造と機能を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
Fisheries Science
巻: 78 ページ: 309-325
ちりぼたん
巻: 41(印刷中)
Fisheries Research
巻: 110 ページ: 84-91
http://otolith.aori.u-tokyo.ac.jp/