これまでの研究により、相模湾の潮下帯岩礁域に同所的に生息するアワビ類とサザエでは初期成育場が明確に異なり、アワビ類はいずれの種も浅場の無節サンゴモ上に、サザエは同じ水深帯ではあるが有節サンゴモ類の群落内に選択的に着底し、いずれも数ヶ月間はそれらの海藻群落内に生息することがわかった。本研究ではさらに、無節サンゴモや有節サンゴモ上で同所的に生息する動物種の生活史初期における相互関係を解明することを目的に研究を進めてきた。平成24年度には、これまでの研究結果を総括するとともに、アワビ類が無節サンゴモを、サザエが有節サンゴモを選択的に初期成育場とすることの生態学的意義を考察するため、野外調査を継続するとともに、いくつかの実験的検討を行った。 有節サンゴモ群落がサザエ稚貝を捕食者から保護する効果の有無を室内実験により検討した結果、肉食性巻貝であるヒメヨウラクを用いた実験では、有節サンゴモ藻体が存在する実験区でのサザエ稚貝の生残率が存在しない実験区に比べて高かった。また、より小型のサザエ稚貝を用いた場合に保護効果が顕著であった。一方、オハグロベラを用いた実験でも有節サンゴモ藻体の存在によりサザエ稚貝の生残率は高まったが、稚貝のサイズによる保護効果の差異は認められなかった。サザエはアワビ類稚貝とは異なり、複雑な立体的形状をした有節サンゴモ群落内に着底し、そこに数ヶ月間留まることによって、ヒメヨウラクやベラ類などの捕食から逃れているものと考えられる。 また、初期餌料を巡り主としてサザエと競合関係にあると考えられた2種のモガニ類の生活史を解明した。アラサキモガニの生活史は着底したテングサ群落や有節サンゴモ群落内で完結するが、ヨツハモガニでは、未成熟個体がツノムカデなど小型紅藻群落(水深2-4 m)に生息し、性的成熟以前にヒジキ群落(水深0.5 m以浅)に移動することがわかった。
|