研究課題/領域番号 |
20380110
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
大塚 攻 広島大学, 大学院・生物圏科学研究科, 教授 (00176934)
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研究分担者 |
長澤 和也 広島大学, 大学院・生物圏科学研究科, 教授 (40416029)
浅川 学 広島大学, 大学院・生物圏科学研究科, 准教授 (60243606)
小池 一彦 広島大学, 大学院・生物圏科学研究科, 准教授 (30265722)
堀口 健雄 北海道大学, 大学院・理学研究院, 教授 (20212201)
洲崎 敏伸 神戸大学, 大学院・理学研究科, 准教授 (00187692)
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キーワード | カリグス類 / カイアシ類 / 隔口類繊毛虫 / プランクトン / phoront(休止期) / trophont(摂食期) / tomite(感染期) / 等脚類 |
研究概要 |
隔口類繊毛虫Vampyrophrya pelagicaの感染期tomiteから休止期phorontへの細胞小器官の変化を透過型電子顕微鏡によって詳細に観察した。感染期が宿主のプランクトン性カイアシ類の体表に付着して1時間後には細胞膜表面と細胞質貫入部の周辺部に2種類の別な小胞が形成されるが、それぞれがシスト壁、シスト柄の形成に関わると考えられた。3時間後には食胞から盛んに油滴が形成され始め、さらに48時間後の休止期完成までこの油滴から食胞膜前駆体が盛んに形成され、細胞質内に蓄積していくことが判明した。この変態プロセスで繊毛は消失することはなかった。このような細胞内の動的変化の詳細な観察は世界初であり、摂食期trophontの摂食に伴う細胞体積の急激な拡張のメカニズムが解明された。 寄生性カイアシ類のカリグス類が宿主魚類に付着するための吸盤状構造であるルヌールlunuleの形成プロセスを個体発生、系統発生の観点から比較観察によって明らかにした。ルヌールを持たない原始的なPseudocaligus属とこれを持つより派生的なLepeophtheirus属を比較し、さらに後者の発生段階(カリムス期と成体)を比較したところ、フロンタルプレートfrontal plateと呼ばれる構造の周縁膜が変形して吸盤状になったと考えられた。また、個体発生的にはカリムス期初期から形成が始まり、最終的な脱皮(成体期)に至って初めて機能的構造が完成することが判明した。この他に、寄生性カイアシ類・チョウ類の分類・生態学的研究(新タクソンの記載、所属不明の属の分類学的検討、生活史、宿主特異性、動物地理)、魚類宿主の起源に関する研究なども学術論文として公表した。 九州西方の水深約240mから、クルマエビ類Metapenaeopsis lataの鰓室に寄生する等脚類Minicopenaeon intermedium intermediumを日本において初記録した。寄生率は雌雄宿主でそれぞれ13%、9%であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カリグス類(ウオジラミ類)の生活史の解明については、発生段階数について世界的にも注目される新たな知見を発表し、さらに成体が第2の感染期になりうる証拠をアジアの広範囲から集めることに成功し、水産学上重要な本寄生性カイアシ類の生活史、発生段階の抜本的見直しにもつながった。これらの知見を国際学会(招待講演も含む)、学術雑誌に公表することができた。プランクトン性カイアシ類に寄生する隔口類繊毛虫の感染期から休止期における細胞小器官の動的変化については克明に追跡することができた。これも世界に先駆けた研究となり、2つの国際学会で発表することができた。寄生性扁形動物(単生類、吸虫類)についての生態、発生、宿主特異性、生活史については順調に進行している。ただ、当初の目的であった寄生性渦鞭毛藻類については材料収集の困難さから新たな展開が難しい状況にある。等脚類についてはヤドリムシ類の宿主特異性などに関する新知見を得て公表を実施することができた。ウオノエ類に関しては研究体制の構築ができなかったので進展を見ない。
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今後の研究の推進方策 |
カリグス類の宿主特異性については分子的レベルで解決を図るために別途の科研(挑戦的萌芽研究)を申請して平成23年度に採択されたため、力点を分子レベルに移して展開、発展させていく。隔口類繊毛虫のステージごとの細胞質の動的変化に関する知見は世界的に先駆けて解明したので、平成24年度以降も国際学会などで発表を計画している。達成度の低い研究項目については関連研究者(分担研究者など)と連携、協力しながら今後の展開を図る。
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