研究概要 |
脊椎動物において生殖の中枢を担うゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)は魚類から哺乳類まで動物種を超えてよく保存されている.最近,一部の無脊椎動物にもGnRHの存在が明らかにされ,GnRHの起源と機能分化が生物学的観点から注目されている.本研究では,水産無脊椎動物をモデルとして,GnRHの系統的かつ網羅的解析とともに,水産増養殖における安定的な種苗生産の基盤とするべく重要水産無脊椎動物の新規GnRHの同定と生理機能の解明を目指す. 1. 水産無脊椎動物におけるGnRHの系統的かつ網羅的解析 固定サンプルをパラプラストに包埋して薄切後,免疫組織染色法でGnRHを検出した.一次抗体には,脊椎動物の既知のGnRHの共通アミノ酸部分を認識する抗GnRHマウスモノクローナル抗体(LRH13),脊椎動物に広範に存在するニワトリII型GnRH (cGnRH-II)に対する抗体,および軟体動物のタコGnRH (octGnRH)抗体を使用した.マダコの脳およびアサリの脳神経節において,cGnRH-IIとoctGnRH免疫陽性反応を二重免疫組織化学で染め分けることができたことから,両種には複数のGnRH様ペプチドが存在することが示唆された.さらに,ニホンコツブムシ(節足動物)においてcGnRH-II免疫陽性反応が検出された. 2. 重要水産無脊椎動物におけるGnRH分子種の同定 エゾアワビの脳神経節からGnRHをアセトン抽出した.GnRH標準品をHPLCに付して溶出時間を確認した.次にサンプル抽出物をHPLCに付し,フラクション中のGnRH量を時間分解蛍光免疫測定法で測定した.そしてGnRH標準品の溶出時間と照合してGnRH分子種を推定した。その結果,エゾアワビには,ヤツメウナギII型GnRH (lamprey GnRH-II)様ペプチドが存在することが示唆された.また同様め方法により,ヤリイカとマダコの脳には,octGnRH様ペプチドの他にホヤI型GnRH (tGnRH-I)様ペプチドも存在することが示唆された. 3. クルマエビの卵巣に対するGnRHの生理作用 昨年度の研究によって,クルマエビの中枢神経系にはlamprey GnRH-II様ペプチドが存在することを示唆した.そこで,クルマエビ卵巣に対するGnRHの生理作用をin vitroで調べた.未熟個体の卵巣を摘出して細片(数mg)にし,GnRH含有培養液とともに20℃で24時間インキュベートした.インキュベート後の卵巣片中のビテロジェニン(Vg) mRNAをone step RT-PCRで測定した.その結果,octGnRH, 1GnRH-II, cGnRH-IIは効果がなく,哺乳類型GnRH (mGnRH)は発現を抑制,アメフラシ型GnRH (apGnRH)は発現を促進するという予備的データが得られた.
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