研究概要 |
農産物組織のテクスチャーに関係する細胞膜の水透過性の変化を把握するため、NMRを用いた拡散係数の測定を行った。タマネギ組織をNMR用耐圧試料管に入れ、5℃で分圧0.8MPaおよび0.5MPaまでXeを封入し、7日間保存した。その後大気圧まで戻し、Xeハイドレートを解離させた。この形成・解離後の組織と未処理で7日間保存した組織の水について、それぞれ、Stimulated echo法を用いたNMR(25MHz : NM-MU25A, JOEL)測定により、温度25℃における見かけの拡散係数(cm^2s^<-1>)を測定した。ただし、拡散の観測時間(ms)は20-500msの間とした。 その結果、未処理のタマネギ組織は、観測時間の増加に伴い見かけの拡散係数が減少する典型的な"制限拡散"現象を示した。これは,生鮮野菜の細胞膜の水透過性の低さに由来した現象であり、タマネギ組織の細胞膜の水透過に関する機能は、5℃で7日間の保存後も保たれことが示された。この制限拡散は、5℃でXe分圧0.5MPaの条件下でも観測された。一方,約40%の水がXeハイドレートの形成に使われると推定される5℃でXe分圧0.8MPaの条件では、制限拡散がほとんど観測されなかった。この制限拡散の消失は、凍結・解凍後の野菜においても観測され、氷結晶の形成による細胞膜の水透過性の増大、すなわち、細胞膜へのダメージを示している。従って、Xeハイドレートも、その形成量が増加すると細胞膜ヘダメージを与えることが示された。以上、タマネギ組織において、組織内の液体の水が過剰にXeハイドレート形成に使われると細胞膜にダメージが生じることが確認された。
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