研究概要 |
野草地における放牧牛の植物種選択性を評価し, その要因として可食部の食べやすさ, 栄養価および香気成分に着目し, 各植物種の選択性との関係について検討した。 東北大学川渡FSC内の放牧地内の野草地A区(40-42種存在, 草本と木本が混在)およびB区(27-35種存在, ススキが優占)において, 6-7月と9-10月に調査を行った。各区内に5mx2mの調査区を4-5ヶ所設け, 各区内の160地点について, 高さ0-2mに出現する植物種と部位を出現数として記録し, 植物種別の存在割合と高さ別空間密度を求めた。肉用牛を各区に1頭ずつ歩かせ, 摂取植物種と部位, 採食高を記録し, 高さ別植物採食割合と植物種別選択指数を求めた。次いで選択指数の高い, または低い植物10種を模擬採食法により採取し, バイト重, 養分含量および香気成分(GC-MS)を分析した。 A区とB区との間で植物種選択性の特徴は大きく異なったが, 牛は植物種(草本, 木本)によらず葉部空間密度の大きい高さから多くのバイトをする現象が見出された(P<0.05)。また, 多様な植生下では, 家畜の食欲高揚時には可食部バイト重の大きい植物ほど強く選択されていた(P<0.05)。養分含量は選択性指数の説明要因とはならなかったが, 香気成分をみると, 高選択性植物は青葉臭成分(C_6化合物)を多く含む種(ススキ, タニウツギ等)と, テルペン類を多く含みその組成が多様な種(ヨモギ, ササ等)に分かれた。選択性の低いアジサイとワラビには種特異的な成分(Shilphiperforen類縁体, C_8化合物)が含まれていた。 家畜の食欲高揚時には, 可食部バイト重の大きい植物種を, 葉が多く存在する高さから摂取するというメカニズムが解明された。その一方で, 植物種間で香気物質の特徴に大きな違いがあることから, 草食家畜は香気物質を手がかりに植物種を識別している可能性が示された。
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