研究概要 |
本研究では,以下の3つの面から草食家畜の選択採食のメカニズム解明を行っている。 A)多様な植生下における放牧家畜の植物種選択性の実態解明 A-1)ススキ主体草地に1m×4mの摂食エリアを設けて周囲の植生を刈払い,肉用牛を放牧して可食部現存量の減少に伴うウシの植物種選択性の変化をみた。放牧により可食部現存量が減少するにつれ,ウシはススキ→ハルガヤとスゲ類→タニウツギと摂食することを定量的に示した。A-2)遊休桑園において放牧経験の違いがウシの桑葉摂食行動に及ぼす影響を調べた。放牧経験を通じて,ウシは枝や幹を折り曲げることで高所の桑葉が食べやすい高さに降りることを学習している可能性が示唆された。 B)草食家畜に対して誘引・摂食刺激効果を示す植物由来の香気・味覚物質の同定と利用技術の開発 B-1)餌の嗜好性に関連がある甘味に着目し,野草12種の単糖および二糖の含量をHPLCにより分析した。多くの植物種では,糖分含量は夏<秋となったが,低選択性のエゾアジサイとワラビでも糖分含量が秋に大きく上昇した。そのためウシの植物種選択性と糖分含量との間に有意な関係は認められなかった。B-2)植物の匂いがウシの餌選択性に及ぼす作用をみるため,ウシにアイマスクを装着し,ススキ,チマキザサおよびワラビから2種を組み合わせてウシの鼻先に呈示し,選択実験を行った。ウシは嗅覚と視覚の両情報をもとに餌を選択していることが強く示唆された。 C)草食家畜の3次元空間認識能解明のための調査器具の製作とその有効性の検討 プラスチック資材を用いた構造物を作成し(H2m×L5m×W1m,内部をウシが歩いて連続的に餌を摂食できる),乾草を同量ずつ異なる2ヶ所の高さに配置し,成牛に摂食させた。餌の高さの差が増大するとウシは一方の高さのみから餌を摂取する傾向を強め,餌摂取速度を一定に保っていることが明らかとなった。
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