研究概要 |
本年度は,以下の3つの課題を実施した。 A)植物に含まれる味覚物質の解析:1年目に得た野草植物種の選択指数(SI)の成果に基づき,SIとウシのバイトサイズ(BS)および味覚物質(スクロース,アミノ酸,縮合タンニン,総フェノール)含量との関係を評価した。BSおよび味覚物質は主要植生や季節間で変動した。SIとこれらの要因との相関に一定の傾向はみられなかった。 B)草食家畜の3次元空間認識能の解明:昨年度製作した摂食試験器具に一定の長さと重量の乾草を異なる2つの高さに配置してウシによる摂食試験を行った。獲得餌数はウシの立位安寧時の口高(cm)で最大となり,そこから離れるほど減少した。また上下の餌高が50cm以上離れるとどちらか一方の高さのみ強く摂食し,餌摂取速度を一定に保った。 C)植物由来物質を用いた放牧家畜の植生利用制御法の確立:(1)供試牛3頭には,試験前5日間野草の匂いを経験させ(乾草+ススキとワラビ新鮮葉),3頭を対照とし,試験中は味(スクロース;甘,タンニン酸;渋)と匂い(ススキ臭;好,ワラビ臭;避)を組み合わせて乾草に添加し,60分給与した。飼料形態が視覚的に同じ場合,野草の呈示学習によらず匂いの効果はみられず,ウシは甘味を確認しながら餌選択-摂食を行った。(2)イネ科牧草地に8×4mの実験区(1×1m,32個)を4つ設置し,BS(高,低),味(甘,渋),匂い(無,ワラビ臭)の異なる8処理(4反復)を配置した後,各区にウシを30分間放牧した。ウシはBS大パッチを最初に選択し,そこで味を確認しながら,甘パッチで多く摂食した。 3年間の研究から,放牧牛は視覚(BS),嗅覚および味覚すべての情報で野草植物の形態的・質的特徴をとらえ,自身の経験に基づき摂取-忌避を判断する。未経験の植物に遭遇した場合,食べやすさ,匂い,味を確認して学習する過程を経ることが明らかとなった。
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