ラットを利用した研究において、子宮内に存在する免疫細胞のうち約90%が多核白血球であることを明らかにするとともに、発情周期によって子宮内に存在する多核白血球数が変動し、発情前期に極めて多く存在することを見出した。また、交配後に子宮中の多核白血球数は急激に上昇し、極めて早い時期に精子が貪食され、精子数の減少とともに子宮中の多核白血球の数が減少することが明らかになった。また、交配直前にカフェインを子宮内に注入することで子宮内に存在する精子数が若干増える傾向にあることも確認した。体外での多核白血球による貪食実験では、血清存在下で雌ラット腹腔由来多核白血球がラット精子に群がって良く貪食することを確認後、カフェイン添加培地中では多核白血球によるラット精子の貪食が有意に抑制されるとともに多核白血球自体の凝集も起こらなくなることを明らかにした。また、雌ラット腹腔から採取した好中球に精巣上体から採取した精子を曝露すると、有意な細胞内カルシウムイオンの上昇が観察され、メスラットの好中球は同種の精子によって刺激・活性化されることが示され、この現象は子宮における好中球による精子貪食に関連すると考えられた。雄ラット肝細胞による好中球の細胞内カルシウムイオン上昇は認められなかったことから、同種細胞による好中球の細胞内カルシウムイオン上昇は精子に特異的であることが示唆された。一方、死精子、精子ホモジネートの上清や沈さでは好中球の細胞内カルシウムイオン上昇は誘導されなかった。 一方、牛および豚の血液由来多核白血球を用いて、体外での同種精子貪食能と精子への走化性について検討を行った。その結果、牛および豚多核白血球は血清の存在下でのみ精子への高い走化性と貪食能を発揮することを明らかにした。その貪食能は、活発な運動精子に対しても死滅した精子に対しても差はなかったことから、子宮中では死滅した精子のみを貪食しているのではなく、運動性のある精子もまた貪食していることが示唆された。さらに、培地中にカフェインまたはヘパリンが存在している場合に、それらの濃度依存的に牛および豚多核白血球の同種精子への走化性と貪食能が有意に低下することを明らかにした。
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