本研究では、始原生殖細胞を利用した遺伝子組換えニワトリ作出技術の開発を目指している。本年度は、培養した始原生殖細胞へのGFP遺伝子の導入と、GFP遺伝子発現細胞のレシピエント胚生殖巣への導入を試みた。ニワトリ初期胚より始原生殖細胞を含む血液を採取し、インビトロで培養、増殖させた後、Nucleofection法によりGFP遺伝子の導入処理を行った。そして、薬剤選択によりGFP発現細胞を選択し、これらの細胞の増殖を試みた。培養始原生殖細胞へのGFP遺伝子の導入は可能であった。遺伝子導入処理した始原生殖細胞は数日間培養後、14日間の薬剤選択を行い、その後通常の培養条件に戻し、GFP遺伝子を発現する始原生殖細胞の増殖を行った。生存したGFP遺伝子陽性始原生殖細胞はゆっくりと増殖し、コロニーを形成した。これらの細胞を回収し、レシピエント胚へ移植したところ、一部の細胞ではあるが、生殖巣への導入とGFP遺伝子の発現が確認された。さらに、処理胚を培養し、孵化直前の胚の生殖巣よりDNAを抽出し、PCR法により移植細胞とGFP遺伝子の存在を調べた。その結果、一部の胚で移植細胞は検出されたが、GFP遺伝子の存在は確認されなかった結果が得られた。このことは薬剤選択期間は14日間では不十分であった可能性が考えられた。一方で、処理胚を孵化させた後に雛を育成し、成熟後交配実験を行った結果、これまでのところ移植した培養始原生殖細胞由来の後代は得られていない。以上の結果より、始原生殖細胞のインビトロでの培養、増殖は可能であるものの、培養期間中に始原生殖細胞の多くは生殖隆起への移住能を失い分化してしまったことが示唆された。今後は始原生殖細胞の未分化性を維持できる培養条件、特にフィーダー細胞の作出と選択を重点的に行う必要があるものと考えられた。
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