研究代表者・石井は、マウスの自給本能発現には三叉神経中脳路核(Me5)が離乳のシグナルを受容し活性化されることが必要不可欠であり、また、成熟型の探索行動の獲得とその維持にもMe5が機能していることを報告している。さらに最近、Me5破壊や遅延離乳は海馬歯状回の神経幹細胞新生率に影響を与えることを見出した。そこで本年度は、Me5破壊や遅延離乳の手段を用いて海馬歯状回の神経幹細胞新生率を人為的に操作することで新生後分化成熟する細胞種を特定し、それらの量的比率がどのように変化するのかを調べた。BrdU法により神経幹細胞新生率を解析した結果、Me5破壊や遅延離乳により神経幹細胞の新生率が顕著に増加した。その際、BrdU(新生細胞の指標)とNeuN(神経細胞の指標)の共染色性を示した細胞数が有意に増加し、それとは逆にBrdUとGFAP(グリア細胞の指標)の共染色性を示した細胞数が有意に減少した。これらの結果から、Me5破壊や遅延離乳により神経幹細胞の新生率が増加するが、新生した神経幹細胞の多くが神経細胞に分化していることが分かった。新生後分化成熟した神経細胞の種類(グルタミン作動性神経、GABA作動性神経、あるいはそれら以外の神経なのか、等)の決定には未だ至っていない。次に、海馬歯状回に発現するカンナビノイド受容体(CB)の発現について調べた。その結果、Me5破壊したマウス海馬歯状回におけるCB1のmRNAならびにタンパク質の発現量がコントロールと比べて有意に増加した。次に、Me5から海馬歯状回への神経経路を調べる日的で逆行性WGA-HRP法を用いて神経回路を解析した。その結果、Me5から大脳基底核淡蒼球(LGP)を介して海馬歯状回に神経が投射していることが分かり、Me5-LGP-海馬歯状回の新たな神経回路の存在を見つけた。今後、離乳遅延させたマウスのMe5-LGP-海馬歯状回の神経回路形成についても調べる必要がある。以上の結果から、離乳のシグナルはMe5-LGP-海馬歯状回の神経回路を経由して伝達され、歯状回の神経細胞新生率とCB1発現を増加させ、自給本能の発現に寄与していることが示唆された。
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