研究概要 |
本研究は、マウスをモデルとして胚着床の全貌を明らかするものである。これまでの我々の研究で得られた胚着床を制御する遺伝子発現プロファイルと、それを制御すると予測されるマイクロRNA(Steg PS, Nature, 2007; Choi WY, Science, 2007)プロファイルとの関連性、プロテオームとの関連性を明らかにし、さらに個々の遺伝子、マイクロRN4およびタンパク質の機能解析を行うことにより、哺乳類胚の着床の本質を明らかにすることを目的とした。本年度は最終年度にあたるため、これまでに明らかになった分子ネットワークを基礎として、in vivoで胚着床のコントロール試験を行った。まず、着床阻害試験の確立を行うため、完全に機能を抑制した場合に完全な着床不全が起こるLIFを代表としてその抑制試験を試みた。いずれ、着床不全の個体差について検討しなければならないため、マウスは2系統(B6,ICR)を用いた。B6は少産系、ICRは多産系の代表とした。マウスの妊娠3日目から4日目にかけて3度の抗LIF抗体を腹腔内投与したところ、B6では完全に着床が阻害され、ICRでは約27%にまで産子数が減少した。このことは、本方法が簡便な着床阻害試験として有用であることを示している。従って、次に抗Agrin抗体、抗オルファクトメジン抗体を用いて同様の実験を行った。抗Agrin抗体を用いた結果、B6,ICRともに有意な産子数の減少は認められなかったものの、子宮内膜粘膜固有層の過形成、リンパ球の子宮管腔への浸出など、様々な異常が確認された。抗オルファクトメジン抗体を用いた結果に変化は認められなかった。抗Agrin抗体を用いた結果でも、子宮管腔の閉塞が起きていないことから、LIFの着床に及ぼす作用の一つは、Agrin-アセチルコリン系を介して子宮管腔の閉塞を促すことであると結論付けた。着床期におけるmiRNAの増減の調査を行ったが、そのターゲットが膨大で、機能解析は今後の課題である。
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