研究概要 |
本研究の目的は、妊娠現象の全過程を通して母子境界領域での免疫応答と胎盤特異的情報との関連を総括的に把握することである。本年度は,胎盤特異情報の因子として,胎盤成長因子(Placental Growth Factor, PIGF)に注目し,流産モデルとしてインスリン依存型およびインスリン非依存型糖尿病マウスモデルを駆使して,その生殖能力を検討した。さらに母子境界領域における子宮NK細胞の分化と機能に関して検討した。両糖尿病マウスモデルの生殖能力は対照と比べて,子宮重量,胎子数,胎盤重量が有意に減少した。組織学的には胎盤迷路部が縮小し,基底脱落膜と間膜腺は肥大した。しかしながら,胎子への最も重要な血液供給であるラセン動脈には顕著な変化は認められなかった。P1GFmRNA発現は糖尿病モデルで有意に減少したが,そのタンパク質発現には有意な変化は認められなかった。P1GFタンパクを産生する栄養膜細胞層の縮小にもかかわらず,そのタンパク量が変化しなかったことは他の組織・細胞による代償性機能が働いたものと推察された。その候補として,子宮NK細胞を検討した結果,基底脱落膜および間膜腺におけるその細胞密度に変化はなかったが,基底脱落膜および間膜腺の肥大と考え合わせるとその細胞数は有意に増加していた。さらに,妊娠満期には消失する子宮NK細胞が依然として存在したことから,アポトーシスが抑制されていることが疑われた。すなわち,糖尿病状態(高血糖症)は栄養膜からのPlGFタンパクを減少させるが,代償的に子宮NK細胞を有意に増加させ,妊娠維持に必要なP1GFタンパクを確保しているものと示唆された。子宮NK細胞のアポトーシス抑制がFas発現抑制によるかどうかを現在検討中である。次年度は,胎盤形成の本質が血管新生にあることから,血管新生に関わる因子を検討する。
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