研究概要 |
本研究の目的は、妊娠現象の全過程を通して母子境界領域での免疫応答と胎盤特異的情報との関連を総括的に把握することである。本年度は,Th2サイトカイン優勢なアレルギーモデルマウスを用いて,生殖能力を検討した。特に,IgEと母子境界領域で出現するリンパ球との関連を明らかにすることを目的とした。さらに,胎盤特異情報の因子として,血管内皮成長因子(VEGF)と胎盤成長因子(PIGF)に注目した。アレルギーモデルマウスでは,対象群と比較して,血中IgE濃度は有意に高く(約100倍),胎盤の発達(重量)も悪かったが,胎子数と流産率に有意な差は見られなかった。逆に,間膜腺の発達は増加したが,そこで増殖する子宮NK細胞の動態に有意な変化は見られなかった。しかしながら,未熟な子宮NK細胞は有意に低く,アレルギー状態が子宮NK細胞の分化に強く影響していることが示唆された。IgEレセプターは変化しなかったが,高親和性のレセプターと低親和性のレセプターのバランスに変化が見られ,このアンバランスにより,子宮NK細胞の分化が彰響を受けたものと考えられた。VEGFは顕著な変化が見られなかったが,PIGFは低い傾向にあり,そのため胎盤の発達が低かったものと考えられた。今回は実験的に(強制的に)誘導させたアレルギーモデルであったので,今後の課題として,自然発症のアレルギーでの解析が必要であるが,高IgE血症が妊娠過程において,免疫担当細胞に影響を与えること,特にその分化過程に強く影響することが示唆された。
|