研究概要 |
本研究の目的は、妊娠現象の全過程を通して母子境界領域での免疫応答と胎盤特異的情報との関連を総括的に把握することである。本年度は,前年度からの検討事項であった自然発症アレルギーモデルマウスを用いて,生殖能力を検討した。対象群や前年度の実験発症群と比較して,血中IgE濃度は有意に高く(数百倍),胎盤の発達(重量)も悪かった。これは前年度の実験発症例と比較しても有意に異なる。統計的には胎子数と流産率に有意な差は見られなかったが,自然発症例ではそのバラツキが大きく,着床,妊娠状態の恒常性が失われているものと推察された。特に,着床間領域でポリープ状に子宮内膜が突出する箇所が認められ,さらに鬱血部位が存在し,血管透過性が増加していることが分かった。これらの病理的所見が妊娠維持の致命傷に必ずしもなっていないが,胎子の発育や胎盤形成に強く影響していることが示唆された。子宮NK細胞の分化もさらに遅れ,血管内皮成長因子(VEGF)と胎盤成長因子(PIGF)も有意に低かった。特に脱落膜でのVEGFは前年度の実験発症群では変化が見られなかったが,有意に低下し,ラセン動脈の形成不全が認められ,局所での高血圧状態を誘起しているもの考えられ,これがひいては鬱血状態をさらに憎悪させたものと推察された。IgEレセプターは前年度の実験群と同様に変化しなかった。総じて,自然発症アレルギーの方が実験発症アレルギーより,免疫担当細胞の分化にもVEGFやPIGFの発現にも強い影響を与えることが分かった。
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