研究概要 |
本研究では,地域の有機性資源(木質バイオマス)を用いた担体を,地下水や浸透水由来の水が多く含まれる自然水域において浸漬させ,リン吸着能を持つ鉄バクテリア集積物を担体に担持させた。そして,回収した担体のリン酸肥沃度を評価するとともに,特に担体の条件として,酢酸処理の影響について検討した。具体的には,これまでの木質担体を酢酸の溶液に浸漬させたものと,110℃で乾燥させて加水分解に伴う酢酸の生成を促すものを用いた。その結果,酸化鉄とリン酸の吸着量は,酢酸に浸漬させたものが最も多くなったが,統計的な有意性を得るまでには至らなかった。また,高リン酸溶液の中での浸漬担体のリン酸吸着特性について,これまでの静置条件に加えて撹拌条件での試験を行った。すなわち,浸漬後のスギ担体を10mg/Lのリン酸溶液に入れ,40RPの撹拌条件でのリン酸の濃度(3000RPMで15分の遠心分離)を追跡した。その結果,撹拌条件におけるリン酸の吸着速度は約7倍であり,12時間程度で濃度減少の大半が現れることがわかった。さらに,スギ担体の表面に溝加工を施し,コントロール材と吸放湿能を比較した。溝加工を施した試験体はいずれもコントロールよりも経時的な吸放湿量が多くなり,繊維直角方向に溝加工を施した試験体は,繊維方向に溝加工を施した試験体よりも吸放湿量が大きくなったが,これは溝加工によって表面に現れた木口断面が単位時間あたりの吸放湿量の増大に大きく寄与していたためであると考えられた。また,本システムの浸漬条件の設定条件を規定するための水文条件を勘案するための方策として,降水現象を確率的に見た場合の確率論的な変動を考察した。その結果,日降水量,2日降水量,日流量の年最大値の確率量は,この30-40年の間に増加傾向にあることが推定されたため,数十年以上に一度の降水や洪水イベント時に流域から河川へ流入するリンフラックスは,経年的に増加している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の取り組みについては,たとえば,撹拌条件におけるリン酸の吸着速度が静置条件の約7倍であり,12時間程度で濃度減少の大半が現れることなどがわかり,研究目的に対しておおむね順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
撹拌条件での吸着特性について,初期濃度や溶液に対する担体の比率などの条件についての考察を充実させる。また,スギ担体の表面に溝加工を施し,繊維方向を考慮した試験を行うとともに,表面に現れた木口断面の吸放湿量の変化についても考察を加える。さらに,陸域から水域に供給されるリンの量と形態を,水文循環の過程と関連を持たせた解析として,鉄の溶出に影響を及ぼす地下の土壌構造の観点から,酸化還元状態に作用する土壌空気の形態とその経時変化について考察を加える。そして,最終年度として,より汎用性のあるシステム構築に向けた要点整理を行う。
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