味物質の嗜好あるいは忌避する生体システムは、末梢の味蕾細胞レベルで規定されている。つまり、T1R陽性味細胞は嗜好性の甘味と旨味(アミノ酸)物質など、T2R陽性細胞は忌避性の苦味物質などの摂食に関与している。われわれは、この味覚嗜好性が「ヒトから魚」までの脊椎動物の共通基盤であるという"概念"を世界に提出した。本研究は、この概念に基づき、嗜好-忌避を分担する味細胞、味神経、中枢の分子・細胞レベルの特性を遺伝子発現(ゲノミクス)から解析することを目途として実施した。 ▼嗜好・忌避に関わる味神経および中枢(NST)神経細胞のセンサリーゲノミクス解析 嗜好味物質を受容する甘・旨味細胞と連結する鼓索神経節、舌咽神経節、さらにはNSTのWGA陽性細胞の遺伝子発現解析を行い、細胞特性を解明した。 忌避物質であるデナトニウムおよびシクロヘキシミド受容細胞にWGAを導入するトランスジェニックマウスを作製し、このマウスについてもWGA陽性味神経細胞ならびにNST細胞の分子特性をDNAマイクロアレイにより解析した。 モデル魚においても嗜好性にかかわるアミノ酸受容味細胞(T1Rs陽性)、忌避性にかかわる苦味受容細胞(T2R陽性)、酸味受容細胞(PKD陽性)にそれぞれWGAを導入するトランスジェニックメダカを作製し、身体全体におけるWGAシグナルを観察した。 ▼味刺激により応答する味神経細胞ならびにNST細胞の検証 T1R3-WGAマウスの舌にシュクロース、サッカリンなどの甘味物質およびグルタミン酸ナトリウム+イノシン酸などの旨味物質で刺激し、味神経細胞、NST細胞の応答性をc-fosシグナルの組織染色により解析した。
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