研究課題
動物細胞と細胞外基質間の接着、いわゆる細胞接着は、1)環境センサーと2)環境コントローラーという2つ重要な役割を持っている。細胞は細胞接着により、周囲の細胞外基質の種類、堅さを感知し、自身の運命(生存、分化、運動)を決定している。センサーの異常はがん化に結びつき、センサーを自由に制御できれば、がん治療や再生医療に貢献できる。cAMP依存性キナーゼ(PKA)は細胞接着の有無により活性が調節され、しかも、細胞運動の調節にかかわる重要なシグナル分子であることから、環境センサーの一端を担っていると考えられている。PKAは基質特異性が非常に低いため、細胞内での局所的な局在が生理機能の発揮に必須である。本研究では細胞骨格形成促進因子WAVE2が、これまで知られていたアクチン重合を促進機能に加え、PKAを細胞膜突出部に局在化させる機能を持っていることを明らかにした。また、WAVE2とPKAをそれぞれ大腸菌で発現、精製し、それて用いてPKAとWAVE2が直接結合することを示した。PKAは触媒サブユニットと制御サブユニットからなることが知られているが、WAVE2はいずれのサブユニットとも結合した。PKAを細胞内の特定の場所に局在化させるタンパク質(PKAアンカータンパク質)の多くは、制御サブユニットとのみ結合するので、WAVE2は特殊なPKAアンカータンパク質であることが示唆された。さらに、WAVE2は細胞膜突出部でPKAと共局在しているだけでなく、非常に近接して存在していることをPLA法(Proximity ligation assay)法を用いて示した。これらのことから、環境センサーの一端を担うPKAの新しい制御メカニズムが明らかとすることに成功した。
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