研究課題
動物細胞と細胞外基質間の接着、いわゆる細胞接着は、1)環境センサーと2)環境コントローラーという2つ重要な役割を持っている。細胞は細胞接着により、周囲の細胞外基質の種類、堅さを感知し、自身の運命(生存、分化、運動)を決定している。一方細胞は、細胞接着を介して自身を取り巻く細胞外基質の繊維化を調節し、自らの細胞外環境をコントロールしている。細胞接着がもつこの2つの重要な機能は、いずれも接着領域に集積する細胞質タンパク質、いわゆる接着領域裏打ちタンパク質によって仲介されている。今年度は、細胞間接着領域に集積する裏打ちタンパク質Dlg5に着目して研究を行った。Dlg5は炎症性腸疾患の一つクローン病の発症のしやすさと関連があると報告されているが、これまでその機能はほとんどわかっていなかった。Dlg5と同じファミリーに含まれる遺伝子は、上皮細胞が間葉系細胞に変換する上皮間葉転換という現象を制御することで、細胞外マトリックスの一種フィブロネクチン分泌を調節することが知られている。そこで、Dlg5の発現を変化させ、フィブロネクチンの分泌をはじめ、上皮間葉転換現象に与える影響を調べた。その結果、Dlg5はフィブロネクチンの分泌を抑制し、E-カドヘリンの発現を上昇させるなど、上皮間葉転換を抑制することがわかった。また、このメカニズムについて検討したところ、Dlg5がTGFβ受容体を介したシグナル伝達を抑制していることを明らかとした。これらの結果から、細胞間接着領域の裏打ちタンパク質Dlg5は、TGFβ受容体シグナルを調節することで細胞外マトリックスフィブロネクチンの量を調節する環境コントローラーの一部として機能することがわかった。フィプロネクチンは細胞の生存や増殖を引き起こすため、Dlg5を発現する細胞が周囲の細胞の増殖、生存の調節に関わる可能性も考えられる。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件)
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