研究課題
私はこれまでに、解糖系から生成する代謝物メチルグリオキサール(MG)が、種々の転写因子の活性化や細胞内シグナル伝達系に影響を及ぼすことを出芽酵母や分裂酵母をモデル生物として見いだし、その分子メカニズムの一端を明らかにするとともに、代謝物によるシグナル伝達機構「メタボリックシグナリング」という概念を提唱してきた。本研究課題では、これらの解析の過程で、出芽酵母を用いて新たに発見したMGが引き起こす3つの現象(ホスファチジルイノシトール代謝の変動、細胞極性の消失、スピンドル極体(SPB)の分配異常)について、その分子メカニズムの詳細を明らかにすることを目的としている。これまでの研究から、MG処理によってアクチンパッチがbud tipから細胞全体に拡散してしまい、細胞極性が消失し、細胞増殖、とくに核分裂が停止することを見いだした。そこで本年度は、アクチンの極性制御に関与するシグナル伝達系に及ぼすMGの作用と核分裂に関して、以下の2つの課題を実施した。(1)細胞極性に関与するPkc1/Mpk1-MAPKシグナル伝達系に及ぼすMGの影響アクチンの組織化にはプロテインキナーゼC(Pkc1)と、その下流で機能するMpk1-MAPKが関与する。そこで、MGがこれらのプロテインキナーゼの活性化に及ぼす影響を検討した。その結果、MG処理によりMpk1のリン酸化が起こった。そのリン酸化は、pkc1Δ株では起こらなかったことから、MGがPkc1/Mpk1シグナル伝達系を活性化していることを明らかにした。さらに、pkc1Δ株やmpk1Δ株のMG感受性を比較したところ、これらの変異株では野生株に比べMG感受性を示した。(2)Pkc1/Mpk1-MAPKシグナル伝達系と核分裂MGにより極性成長が阻害され、それと同時に核分裂が阻害されるが、このとき細胞は細胞周期のG2/M期で停止したような細胞形態を示す。そこで、細胞周期進行に重要な役割を果たすサイクリン依存性プロテインキナーゼCdc28の活性状態を検討した。その結果、MG処理によりCdc28のTyr19がリン酸化された。またそのリン酸化は、swe1Δ株では起こらなかった。また、Pkc1の構成的活性化変異体導入株では、MGによる核分裂阻害が部分的に抑圧された。
すべて 2011 2010
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件)
Seminars in Cell & Developmental Biology
巻: (印刷中)
Redox Report