シトクロムP450(CYP)はヒト薬物代謝の中心的役割を演じる重要な酵素であり、その活性はヒトゲノムの一塩基多型(SNP)により大きく影響を受ける場合がある。CYPの基質結合ポケット内における薬物間相互作用は予期せぬ副作用の原因となるが、それ自身の複雑さに加えてSNPの影響による複雑さもあいまって、解析がほとんど進んでいないのが現状である。そこで本研究では、薬物間相互作用を引き起こす薬物の組合せとSNPの影響を明らかにするため、(1)薬物間相互作用の網羅的測定、(2)薬物問相互作用の構造解析、という2つのサブテーマを設定して検討する。昨年度の研究により、多種の薬物代謝に関わり多数の薬物間相互作用に関する報告がなされているものの、その解析が特に遅れているCYP2D6、CYP3A4の大量調製に成功した。これにより、ヒトの主要な5種のCYPすべてが揃ったため、今年度はすべてのCYPを用いた網羅的解析へと研究を展開した。その結果、これまでCYP2C19の基質であると考えられてきたジアゼパムはCYP2C9にも高い親和性を持っことがわかった。しかしながら、ジアゼパムは2C9によって代謝されず、他の2C9の代謝を強く阻害することがわかった。この結果は、これまで知られていなかったジアゼパムが関わる薬物間相互作用が起こりうることを強く示唆している。また、これまで報告されているCYPIA2のSNP変異体をすべて調製した結果、いくつかの変異体はうまく発現しないことがわかった。これは変異によってタンパク質立体構造に大きな変化が起こっているためだと考えられた。発現に成功した変異体について薬物代謝活性を測定した結果、SNPの影響は反応最大速度にはほとんど影響しないものの、ミカエリス定数に対して最大数倍程度の変化が見られることが明らかとなった。
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