シトクロムP450(CYP)はヒト薬物代謝の中心的役割を演じる重要な酵素であり、その活性はヒトゲノムの一塩基多型(SNP)により大きく影響を受ける場合がある。CYPの基質結合ポケット内における薬物間相互作用は予期せぬ副作用の原因となるが、それ自身の複雑さに加えてSNPの影響による複雑さもあいまって、解析がほとんど進んでいないのが現状である。そこで本研究では、薬物間相互作用を引き起こす薬物の組合せとSNPの影響を明らかにするため、薬物結合性と代謝活性の網羅的測定を行った。ヒト薬物代謝に関わる5つの主要なCYP(1A2、2C9、2Cl9、2D6、3A4)をすべて調製し、SNP情報が得られている変異体を作成した。CYPlA2については16種すべてのSNP変異体の発現を試み、8種の発現に成功した。このCYPでは、ある薬物に対する最大代謝速度VmaxにはSNPの影響がほとんど見られなかったが、薬物親和性の目安となるミカエリス定数kmには最大5倍程度の変化が観測された。また、CYP2C19については既報の26種のSNP変異体のうち、13種の発現に成功した。いくつかの薬物に対する代謝活性を測定した結果、野生型に比べて活性が半分程度に低下する4種の鯉変異体を特定することができた。さらに、CYP2D6の薬物結合性について共鳴ラマン分光法を用いて検討した結果、基質結合ポケット内における薬物配向性を分光学的に検知できることが明らかとなった。これらに加え、CYP3A4の薬物結合性について検討し、2種の薬物が共存することによって活性中心であるヘムの構造が影響を受けることを明らかにした。
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