研究概要 |
本研究は、研究代表者らが明らかにした新事実、即ち"bio-inertであると考えられてきたPEGによる免疫活性化"の機構を解明し、PEGあるいはその他類似の高分子を用いた医薬品開発に寄与する情報を提示する事を主たる目的とした。本年度の研究により、PEG修飾ナノキャリアによるanti-PEG IgMの分泌誘導には脾臓辺縁体(Marginal zone:MZ)に存在するMZ-B cellが重要な働きを果たしている事を明確にした。更には、PEG修飾ナノキャリアはT cell非依存的にanti-PEG IgMを誘導する事も明らかにする事ができた。In vitro系の実験結果から、anti-PEG IgMが存在する血清中で、PEG修飾ナノキャリアは補体系を活性化する事も確認でき、C3aやC5aの遊離に伴うアナフィラキシーショックが生じる事が懸念された。しかしながら、in vivo系の試験では2回目PEG修飾ナノキャリア投与時において動物に変化は生じず、生体に異常を生じさせるほどの現象ではない事が明らかとなった。一方、PEG鎖中に側鎖を持つポリグリセリン(PG)をPEGの代わりの修飾剤として用いたところ、anti-PG IgMの誘導は観察されず、2回目投与時の血中濃度推移も初回投与時のそれとほぼ同じものであった。詳細な機構は明らかではないが、修飾剤の違いによってMZ-B cellとナノキャリアとの相互作用が変化した事が、PG修飾ナノキャリアにおいて特異的IgMが誘導されなかった理由ではないかと考えている。バイオ応用に関しては、PEG修飾ナノキャリアによって感作されたB cellがanti-PEG IgMをその表面に過剰に発現し、2回目投与PEG修飾リポソームを積極的に取り込む可能性が考えられたため、2回目投与PEG修飾リボソームに抗原を封入し、抗原に対する抗体分泌の有無を検討した。検討の結果、モデル抗原に対する多量のIgMの分泌が誘導される事を確認でき、PEG修飾ナノキャリアに対する免疫応答を一種のアジュバントとして利用できる可能性が示唆された。リスク評価としては、PEG修飾ナノキャリアに核酸(siRNA,pDNA)などを付加するとToll like receptorを介した刺激が誘導され、炎症性サイトカインの誘導が生じるだけでなくanti-PEG IgMの分泌誘導も生じる事が明らかとなった。ナノキャリア投与後の血中サイトカイン濃度を測定することで簡易的ではあるが、ナノキャリアのリスク評価が可能である事が示唆された。
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