アルツハイマー病(AD)の発症原因はアミロイドβ(Aβ)の生成とオリゴマー形成による神経毒性の発現と考えられている。Aβは前駆体タンパク質APPが二回のタンパク質分解を受けて生成する。APPを始め切断酵素は膜タンパク質であり、APPは膜小胞輸送においてキネシン-1のカーゴとして機能するため、APP小胞輸送とAPP代謝は密接に関わっている。APP小胞輸送の変調は、APPのアミロイド生成的な代謝を引き起こす。本研究では、APPがどの様な仕組みで小胞輸送を受け、輸送システムの破綻がAβ生成の質的・量的変化を引き起にす仕組みの解明に取り組んだ。H21年度までの解析から、APPがJIP1を介してキネシンモータに接続する分子機構の一端が明らかになった。これまで、キネシン軽鎖(KLC)のC末端とJIPが結合すると報告されていたが、詳細なKLC遺伝子変異解析から、複数のKLC領域がJIPとの結合に必要であることが明らかになった。さらにその結合はリン酸化によって制御されていることが示唆された。また、これまで、APPは他のキネシン-1カーゴよりも高速で順行輸送を受けている事を我々は明らかにしていたが、その分子機構の解明に取り組み、仕組みを明らかにしつつある。これらの解析は、APPが神経細胞で小胞輸送に果たす役割とどのような制御を受けているかを知るために重要な知見をもたらし、その破綻とAD発症との関連性を解明する上で重要である。
|