1.出血性脳障害の病理形成におけるポリアミン代謝の関与について検討した。コラゲナーセ微量注入により脳内出血を惹起したラット線条体では、ポリアミン類の生合成に関与するアルギナーゼおよびオルニチン脱炭酸酵素(ODC)の著明な増加が主としてミクログリアに認められた。アルギナーゼ阻害薬nor-NOHAを出血惹起直後から3日間脳室内に投与すると、血腫中心部位におけるニューロン数の減少は有意に抑制された。また、脳内出血惹起1日後において線条体組織のプトレシン含量が一過性に増加する傾向が認められ、この増加はnor-NOHAの投与によって消失した。逆に、脳内出血惹起7日後においてnor-NOHA投与群ではスペルミン含量の有意な増加が見られた。nor-NOHAは、出血後の血腫のサイズや脳水分含量の増大には影響しなかった。以上の結果から、アルギナーゼおよびODCの発現増大に伴うポリアミン代謝の変動が出血性脳障害の病理形成に寄与することが示唆された。 2.神経保護作用およびミクログリア活性化抑制作用を期待して、培養脳組織切片を用いたin vitro脳内出血病理モデルにおけるニコチン受容体刺激の効果について検討した。組織切片の培養開始時よりニコチンを長期的に適用すると、培養12目目に処置したトロンビンにより誘発される大脳皮質ニューロン死および線条体組織萎縮が有意に抑制された。またニコチンの長期処置はトロンビンの誘発するミクログリアの活性化を著明に抑制した。ニコチンの線条体組織萎縮抑制効果およびミクログリア活性化抑制効果は、α7型ニコチン受容体選択的拮抗薬およびβ2含有型ニコチン受容体選択的拮抗薬のいずれによっても遮断された。これらの結果から、長期処置した時にのみ発現するニコチンの新たな神経保護作用が明らかとなった。
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