近年、(1) 転写因子NFkB活性化と炎症発がんの関連が指摘されている。また(2)構造的クロマチン因子HMGA蛋白質と膵臓がん、がんの浸潤との関連が指摘されている。さらに(3)HMGA蛋白質とNFkBは同じDNA塩基配列に結合し協同的に作用する例が最近報告されている。本研究では2つのDNA結合蛋白質NFkBとHMGAを機軸とし、(1) 酸素活性化剤の連結によりDNAを酸化切断する人工分子、および(2)クロスリンク剤の連結によりDNAと架橋を形成する人工分子の創製を行う。これらの人工分子によりNFkBおよびHMGAの関与するがん化を阻止し、両蛋白質の協同的作用の阻害によるがん治療へと展開することを目的する。 昨年度は研究代表者らがさきに開発した対称型人工配位子HPHに、末端にハロゲンをもつリンカーを導入した化合物の合成を行った。今年度は、末端にクロロ基をもつアルキルリンカーをHPH化合物に導入し、この化合物のリンカー末端とシステイン残基をもつオリゴペプチドとの連結における条件の最適化を行った。 これにより、人工配位子HPHにアルキルリンカーを介してシステイン残基をもつペプチドを導入する方法が確立され、転写因子NFkBや構造的クロマチン因子HMGAなどの蛋白質の認識するDNAを切断するための基礎を得ることができた。 今後は合成化合物の構造的多様性を広げ、これらを用いたDNA切断の検討、抗がん活性の検討などを行っていく予定である。
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