研究課題
芳香族炭化水素受容体(AhRと省略)はリガンド依存的な転写因子として転写反応を促進する一方で、リガンド依存的なE3ユビキチンリガーゼとして蛋白質を分解することにより、特定の蛋白質の細胞内レベルを調節している。従来、AhRは、環境中に存在しているダイオキシンやタバコ煙中に含まれている発がん物質ベンゾピレンなどを外来性リガンドとして結合することにより、奇形や発がんを引き起こすことが知られている。実際に、AhR遺伝子欠損(AhR-/-)マウスではこれらの化学物質に由来する疾患はみられない。一方、本研究において、AhR-/-マウスでは大腸、特に盲腸部において腫瘍が自然発症し、管状腺がんに至ることを見出した。また、AhR-/-マウスの腸ではβ-カテニンの異常な蓄積が見られた。AhRによる大腸がん抑制の中心的な分子機構はE3ユビキチンリガーゼ活性によるリガンド依存的なβ-カテニンの分解であることを分子レベルで証明した。トリプトファンやアブラナ科野菜成分であるグルコシノレートが腸内細菌の存在下で代謝され、その代謝産物であるインドール誘導体が内因性リガンドとしてAhRを活性化し、β-カテニンの分解を促進する。APCと呼ばれるタンパク質が、発がんを促進するβ-カテニンを分解し(APC経路)、大腸がんの発生を抑制していることがこれまでに知られている。AhR経路によるβ-カテニン分解は、従来のAPC経路による分解とは独立的に、しかも協調的に発がんを抑制していることが明らかになった。遺伝子異常によりAPC経路が働かないため腸にがんを多発するマウス(Minマウス)を、インドール誘導体を含む飼料で飼育したところ、発がんが抑制され、β-カテニンの分解が促進された。従って、自然界に存在するAhRリガンドや化学的に設計されたAhRの働きを促進する物質により、大腸がんの発生を効果的に予防できる可能性が示唆された。本年度は以上の内容で論文を作成し、PNASに掲載された。
すべて 2010 2009
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (4件)
Proc.Jpn.Acad. Ser.B 86
ページ: 40-53
J.Dermatol.Sci. (in press)
Proc.Natl.Acad, Sci.USA 106
ページ: 13481-13486
Mol.Cell.Biol. 29
ページ: 6391-6400