昨年度に引き続き、AhR遺伝子欠損マウスでの盲腸癌発生と炎症との関係についての研究を進展させた。AhR^<-/->マウスでは炎症が促進されており、腸においても炎症性サイトカインの発現が高い。AhRユビキチンリガーゼ欠損によるβ-カテニンの異常蓄積だけで発がんに至るのか、または発がんに炎症が関与するかについてを明らかにするために、(1)無菌AhR^<-/>マウス、及び(2)AhR/ASC二重遺伝子欠損マウスを用いて検討した。尚、ASC(Apoptosis-associated speck-like protein containing a CARD)はインフラマソーム複合体の中心的な構成成分であり、これらの複合体でCaspase-1を活性化してIL-1β/IL-18前駆体を切断し、成熟型サイトカインを分泌することにより炎症を高める作用をもつ。AhRはPai-2(Plasminogen activator inhibitor-2)の転写を誘導することによりCaspase-1の活性化を抑制することが知られており、AhR遺伝子欠損マウスでの炎症促進の一因をなすと考えられている。その結果、両者のマウス系において共にβ-カテニンの蓄積は見られるものの、発がんの消失(無菌)及び遅延(AhR/ASC二重遺伝子欠損)が観察され、AhR^<-/->マウスの発がんには腸内細菌による炎症が発がんを促進させることが示唆された。 近年、ノトバイオートマウスを用いた方法により特定の腸内細菌が腸のどの領域に局在して生育し、どのような働きをしているかについての研究が進展している。細菌種特異的に、腸での生育する場所やナイーブT細胞からTh17/Treg細胞への分化の方向付けがなされているらしい。ナイーブT細胞の分化の方向性においてもAhRが重要な働きをしていることを考慮すると、腸内細菌が盲腸特異的発がんに関与しているのかもしれない。AhR欠損マウスでは、β-カテニンの異常蓄積と炎症亢進が同時に観察されることはすでに述べたが、今後、発がんに至る両者の関係について、さらに詳しい研究が必要であろう。
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