研究概要 |
本研究の目的は、本邦で20年以上にわたり使用されているチクロピジン塩酸塩で日本人に頻発するものの、原因が明らかでないため予測が困難な肝障害を、チクロピジンの代謝的活性化に関与する薬物代謝酵素と抗原提示と関係するヒト白血球抗原(HLA)の遺伝子多型で予測できるか否かに関する検証的試験を行うと共に、それが実証された場合、チクロピジンの投与に先立ち遺伝子診断を行って肝障害の回避システムを構築し病院内で運用することである。 2年度目にあたる本年度は、昨年度開発に成功したHLA-A*3303の判定法を実際の患者検体の診断に応用した。それに先立ち、研究実施計画に沿ってHLA-A*3303診断法の改良を行った。従来法は、最終判定がSSCP分析であったため、操作が煩雑で重金属廃液が出る上に、ゲルや染色試薬節約のため、一度に46検体を分析しなければ診断コストが高くつくという欠点があった。そこで本年度はRFLP分析に切り替えることができないか検討したところ、コストが半分以下に抑えられ(150円/検体)、しかも臨床現場で現実的な1検体からの診断が可能となった。我々の知る限り、現在、HLAの診断を大学や医療機関で行っているところはなく、検査会社やNPOの研究所で外注検査の形で行われているが、その費用は3~6万円であり、本研究で確立した診断法は1/300程度の低コストですむ。現在保険適応されているUGT1A1やEGFRの遺伝子診断の診療報酬は2,000点であり国の負担は14,000円であるが、我々が開発している診断法では100円程度であり、医療費削減に大きく貢献しうる。 しかしながら、研究実施計画に記載したように、副作用が少ないクロピドグレルの承認後、チクロピジンは急速に使用されなくなったため、本研究の主たる対象薬物をクロピドグレルに変更するため協力診療科医師と協議し、患者への同意説明文書を作成し直して研究の仕切り直しを行い、本年度中に200名以上の患者から研究協力の同意を文書で取得し血液検体を得た。
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