研究概要 |
本研究の当初の目的は、本邦で20年以上使用され続けているチクロピジン塩酸塩の服用で日本人に頻発するが、その原因が明らかでないため予測が困難な肝障害を、チクロピジンの代謝的活性化に関与する薬物代謝酵素と抗原提示と関係するヒト白血球抗原(HLA)の遺伝子多型で予測できるか否かに関する検証的試験を行うと共に、それが実証された場合、チクロピジンの投与に先立ち遺伝子診断を行って肝障害の回避システムを構築し病院内で運用することであった。生命倫理審査委員会で当院患者1,000人を目標症例数とする臨床研究が承認され(千大医総第5-33号)、初年度は350例近くからインフォームドコンセント(IC)を得て計画どおり検体が収集され、HLA診断法の開発も成功したため順調と考えられた。しかし同じチェノピリジン系抗血症板薬の後継薬クロピドグレルの承認後、副作用が多いチクロピジンは想定を大きく上回って殆ど使用されなくなり、2年度目から主たる標的薬物をクロピドグレルに変更せざるを得ない状況となり、2年度目には200名以上の患者の検体を得た。 3年度目である本年度は、これら検体について詳細な解析を行った。チクロピジンと異なり、クロピドグレルでは肝障害がほとんど起こらず、本年度に解析可能であった約110例(他の症例は、当院でPCIを施行した半年後、経過観察のため当院にもどってくる際に肝障害歴が明確になる)の中では、肝障害を発現したのはわずか2例のみであり症例-対照研究による関連性解析にはさらに多くの症例が必要である。しかしこの2例について詳細な解析を行ったところクロピドグレル誘発肝障害には、チクロピジン誘発肝障害に関連するHLAとは別の型のHLAが関与する可能性が示されたた。そこでそれら2種類のHLAの診断法を新たに開発し(第131回日本薬学会年会で発表)、一方チクロピジンに関しては、理化学研究所から共同研究の申し入れがあり、新たなターゲットへの診断法開発に着手した。
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