研究課題
トランスポーターは医薬品の吸収、分布、代謝、排泄に関わる膜タンパク質であり、近年の研究代表者らの研究から細胞内ではアダプター分子と結合しネットワークを形成することが分かってきた。本年度はそのようなトランスポーターアダプターネットワークに含まれることが明らかとなっているトランスポーターoligopeptide transporter PEPT1/SLC15A1、carnitine/organic cation transporter(OCTN1,OCTN2)の生体内での役割を解明することで同ネットワークの薬効・毒性標的部位としての重要性を以下の観点から明らかとした。(i)PEPT1がβラクタムD-cephalexinのみならずL-cephalexinも輸送し、腫瘍細胞においてはPEPT1阻害効果を持つペプチド化合物が腫瘍増殖抑制効果を示す。(ii)octn1遺伝子欠損マウスを用いたメタボローム解析によりOCTN1は生体内で抗酸化物質エルゴチオネインを輸送することが明らかとなり、OCTN1によるエルゴチオネイン輸送は消化管における酸化ストレスや炎症反応の防御に働く。(iii)OCTN2は心臓の心筋細胞に機能的に発現し、心臓に対してQT延長作用を示す有機カチオン性薬物の臓器内から血液側へのくみ出しに働いている可能性がある。以上の知見は本研究の目的と照らし合わせた時、それぞれ以下の観点から今後の発展が期待される。(i)腫瘍細胞の増殖を抑制する新たな分子標的薬(抗悪性腫瘍薬)の標的分子としてPEPT1ネットワークが重要である可能性を示した。(ii)炎症性腸疾患等の消化管疾患治療の標的としてOCTN1ネットワークを介するエルゴチオネイン輸送が重要である可能性を示した。(iii)不整脈誘発等の心臓に対する副作用を回避する手段の一つとしてOCTN2ネットワークを介する排出輸送が重要である可能性を示した。以上より、本年度はトランスポーターアダプターネットワークの薬効・毒性標的部位としての重要性の一部を解明することができた。
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