本研究は、抗がん剤反応性の個人差解明と薬剤反応性の指標となるバイオマーカー開発を目指ざすものである。ヒト由来の大腸癌細胞において、オキサリプラチンに対する感受性と相関するタンパク質S100A10を見いだした。このS100A10の発現様式と機能解析を進めるとともに、ヒト血液中での測定法を開発し、薬剤反応性診断マーカーとして臨床応用に向けた検討を行った。 1.S100A10タンパク質の発現と機能の解析:S100A10は細胞内で単独あるいはAnnexinA2(A2)と複合体を形成して存在する。siRNAによりA2の発現をノックダウンした結果、A2に加えてS100A10の発現も低下し、抗がん剤に対する感受性は増大する傾向を示した。 2.S100A10発現はオキサリプラチンに対する感受性とは相関したが、5-FU感受性とは相関しなかった。 3.大腸がん細胞培養上清におけるS100A10の検出:S100A10高発現細胞株(HT29およびDLD-1)の培養上清をウエスタンブロット法により分析した結果、S100A10が検出され、S100A10は細胞外へ分泌される可能性を見出した。 4.ヒト血清からのS100A10検出の試み:慶應義塾大学医学部倫理委員会にて承認を得たヒト血液検体をSELDI-TOFMS法によって分析したところ、S100A10にほぼ一致する11kDa付近にピークを検出した。 S100A10測定系の開発:ヒト血液中におけるS100A10の分析およびオキサリプラチンによる治療成績との関連性を検討する目的で、サンドイッチELISAを構築中である。
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