研究の目的:本研究者らは、ACh合成酵素にはcChATとpChATの2種あり、それぞれを含有する2種のコリン神経系が生体にあると提唱してきた。この意義を解明する一つの手段としてヒトpChAT酵素を精製し、その酵素学的特性を解析するとともに、ヒト腸管など末梢コリン神経を形態学的に立証せんとするのが本研究の目的である。 平成20年度の研究実施実績:各種の古典的な精製方法を行い、それぞれ数十倍から数百倍の精製が可能であることを確認した。しかし、さらに効率的な精製方法としてヒトpChAT抗体を用いる免疫沈降法が有望と考えられた。そこで、ヒトpChATタンパクに特異的なオリゴペプチド配列を経験則から推定し、このペプチドを抗原としてマウスを免疫し抗血清を作成した(担当:連携研究者=滋賀医科大学・分子神経科学研究センター・J・P・ベリエ)。その結果、ラットやマウスpChATとは全く交叉反応を示さない抗体の作成に成功した。この抗体を用いてヒト腸管を免疫組織化学法で染色したところ、ヒトpChAT含有神経細胞を初めて観察することができ、本研究の半分が早くも達成された。この予想外の成功を活用するために、モノクローナル抗体の作成に着手したところである。平成21年4月の時点で、有望なクローン7種を作成できている。このモノクローナル抗体が完全樹立されれば、ヒトpChAT酵素の精製は僅か2ステップで完了することも予測され、本年度の研究進展は期待以上と云えるものであった。
|