本研究者らは、神経伝達物質の一つアセチルコリン(ACh)の合成を担うコリンアセチル基転移酵素(ChAT)にはcChATとpChATの2種類があること、それぞれの酵素を含有する2種のコリン神経系が生体にあること、pChATは従来から知られているコリン神経系の他に、神経堤由来の神経細胞(第一次感覚神経節細胞・交感神経節後神経細胞・腸管壁内神経細胞)にも分布すること等を提唱してきた。これら2種のACh合成酵素が存在する意義を解明する一つの手段としてヒトpChAT酵素に対する抗体を作成し、ヒト腸管神経系などにおける末梢コリン神経を免疫組織化学的に可視化する技術開発を目指した。初年度から3年間の研究により、この技術開発の鍵となるヒトpChATタンパクの構造解析を行った。ヒトpChATタンパクのアミノ酸配列は他の哺乳類のpChATタンパクと90%以上のホモロジーが認められたが、ヒト特異的アミノ酸配列がエクソン5と10の接合部領域に存在することが明らかとなった。そこでこのヒト特異配列pChATペプチドを抗原としてマウスを免疫したところ、特異抗体の作成に成功した。この抗体はヒトcChATを認識せず、またラットやマウスのpChATとも全く交叉反応を示さなかった。この抗体を用いてヒト腸管を免疫組織化学法で染色したところ、ヒトpChAT含有神経細胞を初めて観察することができた。したがって、本研究の目標は達成されたものと云える。
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