筋性疼痛、特に機械痛覚過敏(圧痛)の末梢性機構を解明することが大きな目的である。その中で本研究は、最近申請者らのグループが遅発性筋痛モデルにおいて筋機械痛覚過敏に関わることを見出した、筋由来神経成長因子(NGF)の役割を解明することが目的である。 今年度は、繰り返し寒冷ストレス(RCS)による筋機械痛覚過敏状態で、筋においてNGFの発現をRT-PCRで調べた。RCS負荷後5週間の時点まで明らかな発現上昇は観察されなかった。これよりRCSにおける筋機械痛覚過敏には、遅発性筋痛や神経障害性疼痛とは異なり、筋におけるNGFは関係していないと考えられた。 Fujiiら(2008)の薬理学的実験より、遅発性筋痛にTRPVチャネルとASlCの関与が示唆されている。また遅発性筋痛にはNGFとGDNFが関わっていることが明らかになっている。そこでそれぞれによる筋機械痛覚過敏に両チャネルが関与しているか、拮抗薬であるcapsazepin、amilorideを用いて調べた。NGFによる筋機械痛覚過敏はcapsazepinで有意に減弱したが、amilorideは無効であった。一方、GDNFによる筋機械痛覚過敏はその逆であった。これより、NGFはTRPVの修飾を介し、GDNFはASICの修飾を介して筋機械痛覚過敏を引き起こしていることが示唆された。 さらに、培養後根神経節細胞においてパッチクランプ記録を行い、細胞を細いガラス棒で圧す方法により機械刺激したところ、1)変位量依存的な電流が観察されること、2)電流のパターンには速順応型、中間型、遅順応型の3種類が有ること、3)いずれもブラジキニンによって増強されること、を見出した。この実験系は侵害受容器の機械刺激に対する反応の感作の細胞性機構について調べるために有効な手段となりうることが示唆された。
|