心筋組織の恒常性の維持には、心筋組織に存在する内因性の組織保護機構が重要な役割を担っている。本研究では、そのような組織保護機構のひとつである、IL-6ファミリーサイトカインの心筋組織修復・再生過程における意義を、組織内に存在する心筋細胞、血管系細胞、心筋組織幹細胞の細胞動態の観点から明らかにすることを目的としている。 これまで、IL-6ファミリーサイトカインがSca-1陽性心筋組織幹細胞を血管内皮細胞に分化誘導することを報告してきた。そこで、その分子メカニズムを解明するために、それらサイトカインの下流にある分子の探索を行った。その結果、IL-6ファミリーサイトカインLIFで培養心筋組織幹細胞を刺激すると、Pim-1遺伝子が発現誘導されることを見出した。STAT3遺伝子をノックダウンした場合、あるいは、STAT3遺伝子を欠失させた場合では、LIFによるPim-1の発現誘導が観察されなかった。次に、抑制型Pim-1遺伝子を発現させ、LIFによる心筋組織幹細胞の血管内皮細胞への分化を検討し、Pim-1遺伝子の機能抑制は、血管内皮分化能を消失させることを見出した。 以上のようなin vitroの実験の結果に基づき、in vivoで組織幹細胞の分化制御機構を明らかにするため、細胞移植実験を行った。すなわち、心筋組織幹細胞をLacZでラベルし、心筋梗塞を作製した心筋組織に移植した。その結果、移植された心筋組織幹細胞は血管内皮細胞に分化することが明らかになった。興味深いことに、STAT3遺伝子を欠失させた細胞、抑制型Pim-1遺伝子を強制発現した細胞では血管内皮細胞への分化が抑制された。 以上のことから、in vitro、in vivoいずれにおいてもSTAT3/Pim-1シグナルが心筋組織幹細胞の血管内皮への分化に重要であることが明らかになった。
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