昨年までに脳の発達段階(胎生期~生後発達期)におけるDisrupted-in Schizophrenia 1(DISC1)の発現低下が、成熟期のマウスの行動、脳機能や形態に影響を及ぼし、ヒトの統合失調症病態に類似した症状を示すことを明らかにした。本年度は、DISC1に影響を与える環境因子として「飼育環境」に着目した。 生後初期に母親あるいは兄妹から隔離されて飼育されると、脳の発達や成熟後の行動に影響し統合失調症や気分障害などの精神疾患が誘発されると考えられている。こうした飼育環境の生体への分子機構については不明な点が多く、動物モデルでの研究がトランスレーショナルリサーチとして有用である。そこで生後15-21日に1日6時間、母親や兄妹から隔離して飼育し、成熟後に各種行動実験(オープンフィールド試験、社会性行動試験、高架式十字迷路試験、強制水泳試験、Y字型迷路試験、新奇物体認知試験、恐怖条件付け試験、プレパルス抑制試験、行動活性試験)を行って飼育による影響を評価した。隔離飼育によって行動障害が誘発され、HPA軸の活性化、また前頭皮質においてノルアドレナリンとドーパミンレベルの低下が起きた。また扁桃体におけるドーパミンとセロトニン代謝物レベルの低下が起きた。このことは観察された行動障害には、内分泌系と神経系の異常が関与していることを示している。 以上のことから、幼若期のストレスが前頭皮質および扁桃体に影響を与え、成熟期の情動や記憶などの行動や生理学的応答に変化を与えることを見出した。今後はDISC1遺伝子の発現抑制と飼育環境の関係について詳細に解析を進める予定である。
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