近年、種々の幹細胞を利用して、臓器や組織を再生させようとする再生医療が大変注目されているが、実現に至るまでには克服すべき問題点がいくつか存在する。なかでも幹細胞が増殖因子によって制御される分子機構や、組織や臓器が作り出される発生の分子機構に未だ不明な点が多いことは重要な問題である。幹細胞や発生は、FGFファミリーなどの増殖因子によって、複雑な制御を受けていることが知られている。研究代表者は、FGFシグナルを伝達する中心的な細胞内因子FRS2alphaの変異マウスを作製、解析することによって、このマウスがFGFシグナルを包括的に個体レベルで解析する良いモデル系であるという結果を得ている。そこで、本研究では、これまでの分子生物学的方法論の欠点を補う形で、システム生物学的方法論を積極的に取り入れ、増殖因子による幹細胞及び発生の制御機構を解析し、その統合的理解をめざすとともに、再生医療に応用可能な新規シーズの抽出を試みる。 1.FGFによる神経幹細胞の増殖並びに自己複製能制御のシステム生物学的解析 時系列詳細DNAマイクロアレイにより遺伝子発現パターンのプロファイリングを行い、これをバイオインフォマティクス解析に供した結果、Hes1-Pax6シグナルが重要な役割を果たすことが示唆された。現在Pax6の蛋白質レベルの発現、Pax6関連の遺伝子発現を確認しており、この新規シグナル伝達系の解明につなげる予定である。
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